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2020年10月28日

古今のソナタの金字塔にして最高傑作 ― 忠実に再現するためには2種類のピアノをステージに並べないとならない。

仲道郁代 ベートーヴェン・ソナタ全曲 第10集

ハンマークラヴィーア(Hammerklavier)とはドイツ語でピアノを意味します。

ドイツ語で Grosse Sonate fur des Hammer-Klavierと印刷された初版出版表紙は、フランス語表記の Grande Sonate pour le Piano-Forte と同義で他のソナタでもしばしば見られ、「ハンマークラヴィーア」という表示が最初に使われたのは作品101(第28番)だった。
1817年1月9日から同23日までの間にベートーヴェンは出版社のジークムント・アントン・シュタイナー本人(陸軍中将殿)、あるいは番頭頭のトビアス・ハスリンガー(優れた副官殿、あるいは、帝国第二ごろつき野郎殿)宛てに10通の手紙を書いている。作品出版についてさまざまな意見を述べたものだが、再三繰り返される興味深い注文がある。要約すれば「これ以降、全ての我々の作品ではドイツ語によるタイトル表記とし、ピアノフォルテに代わってハンマークラヴィーアと表記すべし。我らが最良の陸将ならびに副官および全関係者は直ちにこの指令を実践に移されたし」というものだ。総司令官からのこの指令が最初に身を結んだのが、1817年2月にエルトマン男爵夫人ドローテア・カタリーナ(1781〜1849)への献辞をつけて初版刊行されたピアノ・ソナタ「イ長調」作品101だ。
このようなドイツ語による呼び名は、それ以前の鍵盤楽器である、ハープシコ-ドやクラヴィコードと区別したいという気持ちを強調したかったためと思われる。そこには、当時一般に使用されていたイタリア語によるピアノフォルテという名称に対して、ベートーヴェンは作品90頃から発想表示をドイツ語で書き始めたりして、いわば国民主義的な考えの現れがそこにあったのではないかとも言えよう。
しかし、今日では「ハンマークラヴィーア・ソナタ」といえば作品106の代名詞のように思われているが、1817年秋に着手されているベートーヴェンの晩年創作期の入り口にありながら、作品106の「変ロ長調ソナタ」、古今のピアノ・ソナタの最高傑作と評される、いわゆる《ハンマークラヴィーア》は、すでにピアノ・ソナタの金字塔を築いている。
ベートーヴェンのピアノ・ソナタ中では最大の長さで、全曲演奏するにはおよそ40分もかかります。高度な演奏技術が必要で、当時演奏できたピアニストはいなかったようです。それでも作曲から約20年後、リストやクララ・シューマンはこの曲をレパートリーにしていたのだそうです。天国からベートーヴェンがそのことに喜んだことは明らかで、彼は将来に於いても〝ベートーヴェンの音楽〟は演奏され、後世の人々が愛好していることに自信を持っていたようです。



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