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2020年10月13日
ベートーヴェンの創作の源泉 ― 〝楽聖〟の個性が強く反映され、晴れやかで明るさと若々しさに満ちたソナタを聴き比べる。

ベートーヴェンの創作活動において、ピアノ・ソナタは最も重要なジャンルの一つ。ベートーヴェンの創作の源泉です。19世紀前半におけるピアノという楽器の発展の中で、彼はピアノ音楽の新しい表現方法を追求しました。
19世紀の大指揮者ハンス・フォン・ビューローによって、〝ピアノの新約聖書〟と称される32曲のピアノ・ソナタは、ピアニストのみならず、ピアノに関わる全ての人間にとって避けて通ることができない、今なお燦然と輝く存在です。
ベートーヴェンのピアノ・ソナタ32曲を作曲順に見ていくと、ベートーヴェンがどんどん新しい世界に突き進んでいくさまと、その素晴らしいメロディーメーカーぶりがわかってきます。
故郷ボンから音楽の都ウィーンに移住して間もないベートーヴェンは、まずはピアニストとして活躍し、その作曲の多くがピアノ音楽に向けられました。作曲を師事したヨゼフ・ハイドンに献呈された「作品2」の3曲は、すべて4楽章制で古典的な様式ですが、第1番は「悲痛」、第2番は「優美」、第3番は「華麗」な性格で、同時期に異なる性格の楽曲を創作するという、当時としては珍しい創作活動を行っています。
4楽章というソナタ形式の中で既にベートーヴェンの個性が強く反映され、第2番は3曲の中でも一番晴れやかで明るさと若々しさに満ちた楽曲です。
そのベートーヴェンの個性は、慣例であるメヌエットではなく、スケルツォを置く、当時の常識を破る工夫が施された作品でした。メヌエットは「ディヴェルティメント」のような娯楽音楽に必ず入れられているものでした。こういった軽めの曲ではなく、もっと抽象的で劇的な性格であるスケルツォに変えたというのは、とても大きな志を感じます。ハイドンやモーツァルトはベートーヴェン以上の作品数をのこしていますが、貴族らの雇われのみとして作曲していました。使えている主人、依頼人の好みに合わえて作曲していました。ベートーヴェンはフリーランスの作曲家の第一号で、音楽を消費される娯楽から、芸術作品へと創作の意欲の方向を変えました。その革新のための独創的で個性的なエネルギーに溢れる若者に、「ハイドンに習ったことは何もない」と言われたことを知ったとして、気持ちよかったでしょう。