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Posted by おてもやん at

2020年10月25日

好きな人に弾いて欲しい〝易しいソナチネ〟 ― 比較的簡単な曲で、入門的に取り組むソナタを聴き比べる。

仲道郁代 ベートーヴェン・ソナタ全曲 第4集

ここにテレーゼと約束した〝S〟がある。

― しかし、僕は今日は彼女に会えないので、それを君から渡してほしいのだ。みなさんに僕からよろしくと伝えてほしい。僕は彼女たちと一緒にいるときが大変に気分がよいのだ。
グライヒェンシュタインはベートーヴェンからの手紙です、と告げた使い走りから手渡された。伝言メモのようなものだったが、1810年4月に書かれたと思われる。この年、ベートーヴェンはテレーゼ・フォン・マルファッティ嬢に恋心を抱いていました。ベートーヴェンの親友であるグライヒェンシュタインは、テレーゼ・フォン・マルファッティの妹と交際していました。彼がきっかけとなってテレーゼと出会うことになったのです。
ここにある「S」とはソナタのことであり、同じころに作曲されたピアノ・ソナタ「嬰ヘ長調」作品78ではない。おそらく前年夏の短期間に作曲していた《易しいソナチネ》と表記されたピアノ・ソナタ「ト長調」作品79であろう。「嬰ヘ長調」には《テレーゼ・ソナタ》の愛称があるが、こちらのテレーゼはテレーゼ・フォン・ブルンスヴィク、つまり、ヨゼフィーネの姉のことである。
ベートーヴェンは「ソナチネ・ファチーレ(易しいソナチネ)」と呼んだ「ト長調」ソナタ ― 第1楽章に手の交差によるパッセージでカッコウの鳴き声がに似たフレーズが繰り返されることから、このソナタは《カッコウ・ソナタ》と呼ばれることがある。メンデルスゾーンによる無言歌集の舟歌を思わせる、ゴンドラの上で二重唱を歌うような主題に始まる第2楽章。「かっこう」のニックネームをもつ第25番は、テレーゼ・フォン・マルファッティのピアノ演奏の技量を想うベートーヴェンの心の内が窺えて、個人的にとても好きな作品です。
ひとつ前の第24番とこのピアノソナタが作曲された1809年は、『運命交響曲』(1808年)、『田園交響曲』(1808年)、『皇帝協奏曲』(1809年)などの大作が生み出されていた時期にあたる。一方、ピアノ曲の分野では小品が量産されており、前作同様この曲も小さな規模にまとめられている。ベートーヴェンは1810年7月21日に楽譜出版社のブライトコプフ・ウント・ヘルテルに宛てて「ト長調のソナタには『やさしいソナタ』もしくは『ソナチネ』と名付けて下さい」と書簡で希望を伝えており、初版譜ではそれに従って「ソナチネ」と題された。その名の示す通り、ベートーヴェンのピアノソナタとしては演奏も容易である。
技術的には易しいように見えますが、じつはそうでもない。全体としては確かに易しい方ですが、その中に、急に、びっくりするように難しい部分が1小節だけとか出てくる。その落とし穴。気まぐれぶりは、少女のようで、また、このソナタを弾くはずの少女が飽きない工夫か。その切り替えが精神的に難しい。気を抜いたら絶対、事故が起こるという危ない作品です。
この1小節に、ベートーヴェンの思いの丈か、ふたりだけのシークレットを開くキーとなっていたのかもしれない。聴き比べるポイントはここにあろう。  


Posted by analogsound at 23:54
Comments(0)ベートーヴェンとピアノ